資産運用こぼれ話:声を上げることを恐れてはいけない

2017年5月30日 08:14

アメリカ生まれの二世、フレッド・コレマツさん(1919年1月30日~2005年3月30日)のことをテレビの番組で知りました。太平洋戦争中の日系人強制収容は人種差別だとアメリカという国家を相手取って戦中、戦後を通じて戦い続けた人です。米国人からはもちろん、日系人の仲間からも「米国を刺激するな」という非難の声を浴びながら孤独な闘いを続け、最高裁で有罪が確定してから38年後の1983年に有罪判決の無効を勝ち取ります。彼に、「何かおかしいと感じたら、声を上げることを恐れてはいけない」という言葉があります。

コレマツさんの言葉で思い出したことがあります。ずっと昔、80年代の初め頃、ニューヨークでグローバルな証券アナリスト資格であるCFA(チャータード・ファイナンシャル・アナリスト)の資格を取るために勉強をしていたころのことです。この試験はプロフェショナル性や職業倫理を非常に重視する試験です。

過去の問題を調べていたらこのような問題がありました。「あなたは証券会社に勤務するアナリストです。上司からある企業の買い推奨レポートを書けという命令を受けます。しかし、その企業を細かく分析すると、とても買い推奨のできる内容ではありませんでした。その旨、上司に告げても上司の命令は変わりません。あなたのとるべき態度はどのようなものでしょう」というのが質問です。上司から自らの判断に反して買い推奨のレポートを書くことを強要された場合、どうすべきかということです。

当時、答えはすべて論文形式でした。答案用紙はブランクのノートのみ。模範解答を見ると、「あなたはその会社を辞めるべきである」と書いてあります。そして同時に「その証券会社がCFAであるアナリストの判断に反するレポートを書くことを強要した事実をCFA協会に報告せよ」というのです。そして、その報告に基づき、CFA協会はその事実を金融機関に公開すると書かれていました。

この答は私には衝撃的でした。会社の命令であれば少し変だなと思ってもそれをするのが「良き社員」だと何となく思っていたのです。しかし、プロというものはそういうものではない。自分のプロフェッションに愛着と誇りを持ち、その地位が高まるような行動をすることこそ本当のプロだと気づかされたのです。そしてこの協会はプロとして信義を通す個人を支える役割を果たすということです。

証券アナリストが自分の判断に正直な、真に投資家のためになるレポートを書くことはまさにアナリストの本文です。それはどのような圧力にも屈してはならないものです。それでこそ、アナリストという職業への信頼感が高まるというものです。そして、これはアナリストだけではなくすべての職業に共通するものです。

それはすべてのレベルの人間に共通します。最近の企業の不祥事などを見ているともっと従業員が声をあげていたら防げたのではないかと思うことが多いのです。企業が正しい方向に向かって進んでいくための責任は従業員にもあるのです。すべての職種で、すべての立場で「声を上げる」ことで日本はもっと、もっと活力ある良い国になるのではないかと思います。

まさに、「何かおかしいと感じたら、声を上げることを恐れてはいけない」のです。それによって証券市場の質も向上し、所属する企業も恩恵を受けることになります。いま、活躍しているアナリスト諸氏もぜひ、そのような心構えで活躍してほしいものです。さらに、日本企業全体も活力を増してくるでしょう。コレマツさんの生涯を少しだけ知ってそんなことを思いました。(これは 投資手帖 2017.06号に寄稿した原稿に加筆したものです)

2017年5月30日 08:14 岡本和久 |

« 前の記事 | 次の記事 »

岡本和久のI-OWA日記

サイトマップ 岡本和久のI-OWA日記TOP ページトップへ